買替えで3,000万円控除と住宅ローン控除どっちを取る?

お子様の成長、定年退職、コロナ禍によるテレワークの浸透等々の理由で、お住まいを買い替えられるという方も多いと思います。

こうした中、よくあるご相談が、マイホームを売却した時に出た利益(譲渡所得)に対してかかる税金を抑えた方がいいのか、新しく取得する住宅を購入する場合に住宅ローン控除を使った方が良いのかというご質問です。

この二つは、併用することができないため、慎重に検討する必要があります。

【コラムニスト】

不動産コンサルタント 黒田健一

●マイホーム売却時の3,000万円特別控除って何?

昨今は地価の上昇に伴って、マイホームを売却した際に利益が出るということがあります。そうした場合は、その利益に対して税金(譲渡所得税)がかかります。

<譲渡所得税の計算式>

譲渡所得(利益)=譲渡価格-取得費-譲渡費用

譲渡所得税=譲渡所得(利益)×税率


つまり、売却価格から、購入価格と諸経費を引いたものが利益ということですね。

この譲渡所得(利益)に税率をかけたものが「譲渡所得税」となりますが、これが所有期間によって変わります。

(※下図参照)

不動産を売却して得られた利益に対してかかる「譲渡所得税」には、税金の負担を軽くするための特例があります。

マイホームの買い替えという観点においては下記の3点を押さえておけば大丈夫です。


(1)3,000万円の特別控除の特例

マイホーム(居住用財産)を売却して得た譲渡所得(利益)については、3,000万円まで所有期間に関わらず税金がかかりません。

これを「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」と言います。


(2)10年超所有軽減税率の特例 ※(1)と併用可

マイホームに10年より長く住んでいた場合、譲渡所得(利益)が6,000万円までの部分の税率が14.21%に軽減されます。

例えば、10年以上住んでいたマイホームを売却した利益が4,000万円出た場合、3,000万円までは(1)の特例で税金がかかりませんが、それを超えた1,000万円に対し、通常だと20.315%かかる税率が14.21%で良いということですね。


(3)特定の居住用財産の買換え特例 ※(1)や(2)と併用不可

特定のマイホーム(居住用財産)を、令和3年12月31日までに売って、代わりのマイホームに買い換えたときは、一定の要件のもと、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができます。(譲渡益が非課税となるわけではありません。)

これを、「特定の居住用財産の買換えの特例」といいます。

例えば、1,000万円で購入したマイホームを5,000万円で売却し、6,000万円のマイホームに買い替えた場合、通常は4,000万円の譲渡益が課税対象となりますが、この特例を使った場合、売却した時には課税されず、買い換えたマイホームを将来譲渡する時まで課税が繰り延べられます。

6,000万円で新しく買ったマイホームを将来、7,000万円で売却した場合、差額の1,000ではなく、繰り延べしていた譲渡益4,000万円+1,000万円=5,000万円に対し課税されるわけです。新しく買ったマイホームが将来値下がりする時には良いかもしれませんが、この特例を使う際にはよく考えた方が良いかもしれませんね。

●住宅ローン控除はどのくらい税金戻る?

住宅ローン控除は、住宅ローンの年末残高の1%相当額が10年間にわたって所得税から差し引かれるというものです。所得税で控除しきれない場合、翌年の住民税から控除されますので、所得税と翌年の住民税の合計額が控除の上限額となります。

新築の場合は住宅ローンの年末残高4,000万円が限度(ただし認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅の場合には5,000万円が限度)、建物消費税がかからない中古住宅の場合は2,000万円が限度となっていますので、一般的な新築住宅の場合は最大で400万円も支払う税金が減ることになります。さらに新築住宅の場合は、11年目から13年目についても、一定の条件のもとで所得税および住民税から控除されます。

●結局どっちを選ぶのがお得なの?

非常にざっくりとしたお話をしますと・・・

売却益がかなり出て、新しく購入するマイホームの資金に充当できるなどして、それほど大きい金額でローンを組まなくてよいという場合には、3,000万円の特別控除を受けた方が良い場合が多いでしょう。

逆に、売却益がそんなに出ておらず、新たにそれなりに大きい金額で住宅ローンを組む場合には、住宅ローン控除を受けた方が良い場合が多いと思います。

前回のコラム「住宅ローン返済中だけど買い替えたい?」でもご説明した通り、住み替えを「買い先行」でいくのか、「売り先行」でいくのかによっても、売却金額が確定する時期、購入する物件の価格が決まる時期が異なってきますので、どちらがよいか微妙だなという場合には、事前にいくつかの金額パターンでシミュレーションをしておくと良いかもしれません。


また、3,000万円の特別控除を受けたとしても、3年以上経てば住宅ローン控除を受けられる可能性があります。

住宅ローン控除を受ける要件の一つに、「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例などの適用を受けていないこと」という条件があるのですが、その制限を受ける期間は下記の通りとなっており、この期間を過ぎれば、再び住宅ローン控除を受けられる可能性があるのです。(他の要件もあるので、総合的なご判断は必要です。)

(1)令和2年4月1日以後に譲渡した場合

  その居住の用に供した年とその前2年・後3年の計6年間

(2)令和2年3月31日以前に譲渡した場合

  その居住の用に供した年とその前後2年ずつの計5年間

(※参考:国税庁Webサイト「No.1214 中古住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)」)


不動産相場が上がっている時に、ご自宅を売却されて3,000万円の特別控除を受けられた方が、転勤や海外赴任などでしばらく賃貸で住まわれ、再度マイホームを購入しようと思った時に、3年以上経っていれば、再び住宅ローン控除を受けることも可能ということですね。


いずれにしても、3,000万円の特別控除を使うか、住宅ローン控除を使うか迷うような場合には、それぞれの特例を使えるかどうかを含め、具体的に税理士さんにご相談されて正確な税額を算出してもらうのが一番ですが、そこまで具体的ではないけれど、ある程度の目安を知っておきたいという場合には、個別相談でも対応可能ですのでお気軽にご相談いただければと思います。


今回は以上となりますが、いかがでしょうか?

マイホームの住み替えの際に、税金の負担をなるべく軽減できるとよいですね。

次の講義へ