コロナ禍でGDPが下がっているのに、なぜ株高?

2020年のコロナ禍により、全世界でGDP(国内総生産)が下がり、経済へのダメージは計り知れない状況となりました。しかし、株価は直後に一時的に下がったものの、すぐに回復し、日経平均株価は12月29日には2万7,568円まで上昇し、1990年8月以来、30年ぶり高値を更新しました。

モノやサービスが売れていないのに、なぜ株価があがるのか?現状を株価の性質とともに見ていきましょう。

【コラムニスト】

 ファイナンシャルプランナー 三井明子

This Time is Different.(今回は違う?)

これまで、金融危機が訪れる度、「今回は違う」と言われてきました。しかし、歴史を振り返ると、毎回同じパターンを繰り返しているとも言えるのです。今回は、何が違って、何が同じなのか?を考えていきましょう。


<これまでと異なる点>

現在、これまでと異なる現象として、株価とGDPの間にあった相関関係が崩れていることがあげられます。原理原則で考えれば、経済が成長(GDP上昇)すると株価が上がり、経済成長率が下がれば、株価も下がります。

コロナ禍により、我が国の2020年4~6月の実質GDPは、前期の1~3月に比べて▲7.9%(年率換算▲28.1%)と大きく下がりました。これは戦後最大の減少率ということで、大きく報道されました。

過去の経験則から、実質GDP が年1%上昇すると、日経平均株価は1,000円上がると言われていますから、▲7.9%ということは、単純に計算すると、株価が7,900円下がってもおかしくないということになります。実際に、コロナ禍の直前の2020年1月の高値は24,083円でしたが、3月中旬には一時16,552円(安値)まで下がり、▲7,531円の下落となりました。しかし、株価はその後すぐに回復し、2020年末には27,568円と、30年ぶりの高値を更新しました。

実体経済の回復は、数年先になると不安視されているにも関わらず、コロナ禍以前の水準を超えて株価が上昇しているのはこれまでと異なる点と言えるでしょう。

<背景>

この現象の背景には何があるのでしょうか?

株価が2020年3月を底として上昇しているのは、アメリカの金融緩和(FRBによる大胆な利下げ)の恩恵であると言えます。政策金利(FF金利)が1.50~1.75%から0.00~0.25%へと一気に引き下げられたことにより、3月23日を底として株価はリバウントを開始しました。

金利と株価はシーソーのような関係にあります。金利が下がるとお金が借りやすくなり、事業を拡大して利益を得やすくなって株価が上がるということですね。(※詳しくはマネーセミナー第一章STEP2「金利と為替」をご視聴ください)

また、リーマンショックの教訓を活かし、世界的に金融緩和や財政支援を一斉に行い、企業の倒産を防ぐ方策が取られたこともこれまでとは違いました。行き場を失ったお金がタブついて、株と不動産に流入しています。(※株や土地・中古物件の売買ではモノやサービスが新たに生み出されたわけではないので、いくら売り買いされても手数料以外はGDPには影響しません。)かつてない規模の金融緩和政策の副作用がどのような形で出るのかは、未知の領域と言えるでしょうし、最後にどうやって帳尻を合わせていくのか、専門家の見解も分かれています。

This Time is No Different.(今回も同じ)

1929年の世界大恐慌以降、深刻な金融危機を引き起こした原因は、「過度に楽観的な期待」や「政府対応への過信」、「金融技術革新」などをもとにした「信用膨張」でした。現在、GDPが大きく減少し、実体経済の回復が数年先になると見込まれる状況で、株価がコロナ禍以前の水準を超えて上がっているのは、過大評価に思えます。

アメリカの著名投資家・ジョン・テンプルトン氏の言葉とされる格言が現在の状況(これまで何度も繰り返された現象)を明確に表しています。

「強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」

現在のステージは、「懐疑の中に育ち」なのか「楽観の中での成熟」なのか・・・

いずれにしても実体の伴わない相場は長続きしませんし、株価は山あれば谷ありですから、一直線に上がり続けるということもありません。

コロナ禍によりチャンスを得て、実体を伴って成長している企業ももちろんあります。それが一時的なものなのかどうかの判断も含め、こんな状況だからこそ「原理原則」に基づいて冷静に判断をしましょう。

元米連邦準備理事会(FRB)議長グリーンスパン氏は、「バブルかどうか、はじけてみるまで分からない」という有名な言葉を残しました。人々は、歴史上、バブルが何度となく繰り返されてきたのを知りながら、「This Time is Different(今度は違う)」と異常さから目を背けて、急騰する株価や地価を追いかけています。中には、バブルと分かっていながら、マネーゲームのように相場を追いかけている人もいるかもしれません。

私たちは強気相場の中でどうすればいいのか?

強気相場は、どのタイミングで終わるのか誰にも分かりません。グリーンスパン氏の言葉を借りれば、強気相場は「幸福の中で突然消えていく」のです。

しかし、これが後から振り返ればバブルだったとしても、現在株価が上がっているのも事実です。この恩恵もできるだけ享受したいですよね。「株と不動産は悲観の中で買え」とも言われますが、すでに悲観の時期は通り過ぎ、今は楽観のステージだとすると、これから株に手を出すことを躊躇される方もいるでしょう。

いつまで強気相場が続くのか、そしてそれがいつ終わるのか・・・これは誰にも分かりません。

でも実は、それが分からなくても、始めるタイミングを選ぶ必要もなく、相場の上下に右往左往することもなく続けられる、極めてシンプルな投資手法があります。あまりにオーソドックスですが、それゆえに廃れることもない方法。それがドル・コスト平均法を用いた長期分散投資なのです。

この方法はマネーセミナーの第三章STEP2(「ダブルの分散でリスク回避」)で説明していますので、詳しく知りたい方はぜひご覧ください。

相場の上下は今後も必ずやってきます。その波をうまく活用するには、毎月マーケットに参加し続けるしかないのです。自動で積立てを行う仕組みさえ作れば、しばらくの間ほったらかしていても、10年以上の時間をかけられるのであれば、安定した成果を期待できます。色々な方法がありますが、ご自身にとってはどんな方法が向いていて、いくらくらいのお金を投資に回せるのかを知りたい方はFPによる個別相談(対面またはオンライン)を受付けていますので、こちらもぜひご利用ください。


さて、今日はここまでですが、皆さんいかがでしたでしょうか?

常に原理原則に基づいて、シンプルに考えるということを大切にしていただければと思います。

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