忘れてませんか?相続した土地の登記が義務化へ

昨今、「空き家問題」などがクローズアップされていますが、人口減少時代において所有者が分からない「所有者不明土地」が増えています。

国土交通省によれば平成28年8月時点で、この所有者不明の土地は約410万ヘクタールに相当するということで、九州全土(368万ヘクタール)より大きい面積になっているのです!

所有者が不明だと、その土地を有効に利用することもできず、国レベルの大きな問題になりますので、国はついに動き出しています。

一方で、登記はしてあるけれど離れたところにある不動産、現在使用していなくても思い入れがあるのでなかなか手放せない不動産を長い間そのままにされている方はとても多いのですが、超高齢化社会に入り、相続物件の数がどんどん増加するなか、これまでのようにそのままにし続けることがリスクになってくる時代に差し掛かっています。

上記のような不動産をお持ちの皆さん、不動産を相続される予定のある方はぜひご覧ください。

【コラムニスト】

不動産コンサルタント 黒田健一

●九州全土の面積を上回る「所有者不明土地」

国土交通省の定義によると、「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、又は判明しても所有者に連絡がつかない土地」を所有者不明土地と言います。通常ですと、土地などの不動産は「不動産登記簿」で確認することができますが、正しい情報が反映されなくなるケースが増えているのです。

その最たる原因は、「相続時に登記がされていない」ケースが多いためとされています。

通常、土地などの不動産の所有者が亡くなると、身内の方へ相続されるはずなのですが、その際に相続によって所有者が変わったことを登記していない場合があるのです。

現在のところ、この相続登記は義務ではないので

・登記費用がもったいない(登録免許税や司法書士報酬など)

・手間がかかる(面倒、忙しい)

・固定資産税を払いたくない

・登記をする必要があると知らなかった

・相続の話し合いがまとまっていない

・相続してくれる身内がいない

などの理由で、登記されないまま放置されているケースが増えているのです。


また、不動産の登記をしたとしても、その後に所有者が住所変更した場合の登記も義務化されていないので、住民票上の住所が変わっても不動産登記簿の住所が変更されていなければ、所有者へ連絡をとることができず、そういった場合も「所有者不明土地」となってしまいます。

●相続登記の義務化や現に所有している者の申告の制度化へ

所有者不明土地が増えると、「空き家問題」などで見かけるような荒廃した家屋、草木が生い茂る土地が増え、住環境が劣化するなどの他、下記のように自治体にとって深刻な影響を及ぼしてしまいます。

例えば・・・

〇所有者特定作業の増加

〇地方自治体の税収減少

〇管理責任の所在が不明

〇近隣で生活している人に危険を及ぼしてしまう

〇税金を使っての解体工事

などなど、自治体として放置できない状況になりはじめています。

これまでは、登記簿上の所有者が死亡している場合、「現に所有している者」(通常は相続人)を把握するために、課税庁は時間と労力を割いてきたわけですが、迅速化・効率化のために、死亡届の提出者に対し、不動産を「現に所有している者」の申告を義務化する条例を定める自治体も出てきました。(令和2年度税制改正以降)

また、土地などの不動産を使用している人がいるにも関わらず、所有者が正しく登記されていない等の理由により、所有者が特定できない場合、課税ができず、公平性の観点から問題となっていました。これまでは、法律上は震災等の事由によって所有者が不明の場合に限り、使用者を所有者とみなして課税できるという規定がありましたが、令和2年度税制改正において、調査を尽くしても所有者が一人も明らかにならない場合、事前に使用者に通知したうえで、使用者を所有者とみなして固定資産課税台帳に登録し、固定資産税を課税することができるようになりました。

賃貸物件のオーナーの方は、ご自分の死後、使用者と相続人がトラブルにならないように配慮するとともに、相続を受ける側も、相続時に登記をしていなくても事実上相続しているとみなされる場合(その土地に住んで使用している場合など)は、自分が固定資産税を納税する義務を負う可能性があるということを、念のため心に留めておく必要があると思います。

●相続登記がされていない土地の所有者は何が困る?

では、こういった土地が増えた場合、いったい何が困るのでしょうか。

(1)土地の売却ができない

不動産の売買では必ず登記名義人と、現所有者が一致していないと売買することができません。仮に良い場所に土地があっても、登記を整えなければ売却できないということになります。

(2)利用・活用できない

たとえば土地にアパートを建てて活用したいと思った時も、アパートを建てるハウスメーカーは、土地の権利者を正確に知るために登記簿を確認します。所有者が確認できない状態では、その上に建築を行うということには難色を示し、まず登記を整えなければ計画を進めることはできないでしょう。

また、国が街の活性化を図ろうとしても公共用地として取得することもできず、災害対策の工事や道路・鉄道などの開通にも支障をきたすことがあります。

(3)相続することも困難になる

何世代にもわたって相続登記がされていないケースでは、相続人や関係者がたくさんいて、その不動産を自分が相続してよいかどうか合意を取ることも困難です。自分が正当な相続人であることの立証も難しくなります。

(4)固定資産税の課税ができない

これは国が困るわけですが、課税の公平性を欠くことになり、そのしわ寄せはやがて国民の皆さん全員に跳ね返ってきます。

●民法・不動産登記法の改正案

これらの問題への対応として、2021年2月10日に法制審議会民法・不動産登記法部会第26回会議が開かれ、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案(案)」が決定されました。政府は、3月にもこの改正案を閣議決定し、国会で成立後2023年度に施行する運びとなっています。


この法案の改正ポイントを下記にまとめました。

(1)相続登記が義務化される!

相続により不動産取得を知った時から3年以内に登記・名義変更をしないと10万円以下の過料の対象となる。

(2)住所変更登記が義務化される!

不動産の所有者が住所を変更した場合は、住所変更登記を2年以内に行わなければ5万円以下の過料の対象となる。

(3)所有者情報など連絡先の把握をしっかりするようになる!

・新たに不動産の所有権を取得する個人は、名義変更登記時に生年月日等の情報提供が義務化される。(生年月日は登記簿には記録されないが、法務局内部において検索用データとして保管される。)

・所有者が会社などの法人であるときは、商業・法人登記システム上の会社法人等番号が登記簿に記録される。

・海外居住者は、その国内における連絡先(第三者も含む)を申告が必要。(その連絡先が登記簿に記録される。)

・所有不動産の一覧情報を本人または相続人から法務局に対して交付を求めることができるようになる。

●親が所有している土地が「所有者不明土地」だったら

いずれご自身が相続する場合に困ることになるため、できるだけ早く問題解決に向けて動く必要があります。相続登記はご自身でも手続きする事ができますが、何世代も遡らなければならない場合は、司法書士などの専門家に依頼しなければ実務的に難しいでしょう。売却を考えている場合で、他の権利者や共有者が確認できない場合は、「不在者財産管理人」(行方不明の人(不在者)の財産を管理する人のこと)を選任して手続きを進める方法もあります。(裁判所が関与するため、少々の手間と費用はかかります。)


●相続した空家を所有する事のリスク  (事例紹介)

「気持ちの整理がつかない」、「遠方でなかなか時間を割けない」などの理由で、相続後の数年間、不動産をそのままにされていたというケースで、私が不動産コンサルでお手伝いさせて頂いた例をご紹介します。

~放置した結果近隣からの苦情で、改善に300万円を要したAさん~

この方は大阪にお住まいで、8年前に相続で築40年の川崎のご実家を相続されました。既に大阪で家族と暮らしている為、ご実家に戻るつもりはありませんが、思い出のある実家ですので、ひとまずそのままにしてボチボチ考えていこうと思っている間に8年経ってしまったということでした。

ある日、近隣住民の数名から「苦情」が来て、近年の大雨などの影響からか、お庭に造作していた築山(つきやま)の土と十数個の大きな岩、大きくなった樹木などの重みで隣接する家の塀を押して倒れそうになっているので改善してくださいとの事。更に相続登記がされていなかったので、近隣の方はどこに苦情を言って良いかわからず数年間のストレスも溜めた状態でした。

私が現地を見た時には既に傾いた塀の隙間から土もこぼれ始めていてとても危険な状態でした。台風の季節間近だった為、結果的に応急の解体を行わざるをえず40坪近くあったお庭の整地と傾いた隣接地の塀の改修で300万円という費用をかける大工事となってしまいました。

Aさんも、以前から少し気になっていたそうですが「まさかここまでになっているとは…」との事でした。

その後、この一件を機にご実家を売却され、そのお金で大阪の自宅を改修したり、将来の資産運用で安心できるポートフォリオを構築されました。

最終的にAさんは「寂しい気持ちはあるけれど、親も安心して喜んでくれていると思います」と晴れやかにお話されていました。


Aさんのようなケースの他に、害虫や動物が住みついた事による近隣への被害もありますし、最悪の場合火災などのリスクも抱え続けていることも認識しておかなければなりません。

今後相続するであろう不動産がある方の場合、相続時(人が亡くなる時)にはやらなければいけないことがたくさんあり、精神的にもいっぱいいっぱいという状況の中、期限まで色々な対応をおこなわなければいけません。可能な限り、事前に整理できるものは整理しておくほうが良いと思います。


都心部の資産価値の高い不動産は別として、人口減少による不動産の2極化は加速の一途をたどっています。

需要が低いエリアでは、最終的に売却をと思っても、競争相手(他の相続物件)が増えていて、購入したい人が減っていると、売却価格は大幅に下がってしまいます。(現在でも売却はすること自体が難しい物件も増えてきています。)

特に不動産は、物理的に遠い場所のものを相続することも多いと思いますので、何か気になることがあれば気軽にご相談ください。

【お問合わせ先】

「住まいの自分軸形成」、「住まいのセカンドオピニオンサービス」でもご相談を受け付けておりますが、どちらに申し込んでいいのか分からないという場合は、下記までメールにてお気軽にお問い合わせください。

<ライフプランサポート協会>  [email protected]


ということで、今回は以上となりますが、いかがでしたでしょうか?

早めに皆さんが相続について考えるきっかけになれば幸いです。

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