「高預かり」に気を付けて!売却時に知っておくべきこと

住み替えでマイホームの売却を考えている方や、相続で取得した不動産、投資用物件などを売りたいと思われている方は、今回のコラムは必見です。

不動産を売る時は、当然のことながら、少しでも高く、そして早く売りたいとお考えですよね。この時に、きちんと業者選びを行わないと、大変なことになってしまいますので、しっかり注意すべき点を押さえておきましょう。

【コラムニスト】

不動産コンサルタント 黒田健一

注意すべき「高預かり・囲い込み・値こなし」とは?

皆さんは、不動産売却は名の知れた大手に任せておけば安心と考えていませんか?実は、大手であろうと関係なく行われている「高預かり・囲い込み・値こなし」というものがあります。

<過去にご相談を受けた事例>

Aさんは、定年退職を目前にして郊外に住み替えたいと考えていました。

そこでどのくらいの価格で売れるのものか、一括見積サイトで複数の業者に売却価格査定を出しました。すると名の通った不動産会社から「さっそく査定に伺いたい」と言われ、思ったよりも高い「査定価格」を出してきました。「そんなにいい値段で売れるの?」と少し疑問に感じながらも「我々には実績があるので、任せていただければ大丈夫です。絶対売れます!」と言われるので、そのままお任せすることにしました。

また、「専任媒介(※後述)でお任せいただければ、広告費も上乗せできますし、物件の見栄えを良くするために、不用品の一時預かりなどのサービスも付けられますよ」と言われ、それは良いと思って専任媒介でお任せしました。他の業者の査定額はそれより低かったですし、複数の業者とやり取りするのも面倒だと思ったので…。

ところが、それから2か月経っても内覧者は全く現れず、毎週1通、封筒でありきたりな報告書が届くだけという状態が続き、どうなっているのかと問い合わせたら、いろいろな売れない理由を付けてきて「このままでは売れない可能性が出てきたので、500万円下げましょう」と自分で提案した値段を下げてきました。その時点でかなり不信感はあったのですが、住み替え先も決まって焦っていたので、言われるまま値下げを了承しました。それでもなかなか、買い手は見つからず、他の業者に相談したいと言ったら、「専任媒介なので3か月は当社にお任せいただきます」と言われました。

<問題点>

この事例には、下記の3つの問題点が含まれています。

(1)高預かり

実際の「適正価格(相場価格)」よりも高い金額で「査定価格」を出し、売買物件を預かるのが「高預かり」と言われる行為です。

これに引っかからないためには、査定価格の根拠(周辺の成約事例などの提示があるか)をしっかり確認しましょう!(ご自分でもある程度の相場観を確認しておく姿勢が重要です。)

(2)囲い込み(専任媒介)

不動産を売却する際には、不動産会社と媒介契約を結ぶことになりますが、その際に「専任媒介」「一般媒介」を選ぶことになります。

専任媒介契約では、契約できる不動産会社は一つですが、一般媒介では複数の不動産会社と同時に契約することができます。

詳しくは下図を参照していただければと思います。さて、この図をみて、「売主(依頼者)」にとって一番良いのはどの形態だと思われますか?

専任媒介の場合、売主側の窓口が一社のみなので、他社の買主側仲介経由のお客様をブロックして、両手取引(売主・買主双方から手数料をもらう)を狙ってしまう事例(=「囲い込み」という)があります。

専任で囲い込みをされてしまった場合、仲介会社は他の不動産会社に先を越される心配がないので、ゆっくりと買い手を探すことができます。他社の買主側仲介経由のお客様を何だかんだと理由を付けて案内しないとか、案内しても積極的にアピールしないといったことが水面下で広く行われ、問題になっています。

数年前に新聞や週刊誌等でこの事実が明るみになり、囲い込みできない仕組みが作られましたが、別の方法で現在も行われているというのが実情です。

専任媒介は3か月で契約することが多いですが、不動産市場において、3か月も出回って買い手がつかないという物件では、売れ残り感が出てしまい不利になります。最初の2か月くらいまでが勝負と心得ておきましょう。

(3)値こなし

売却しやすい価格に引き下げるためにわざと売却活動を控えて時間をかけ、売主が弱気になったところで値段を下げさせるというのが「値こなし」です。

これを行う不動産会社も良くありませんが、「査定に高い値をつけてくれた」という理由だけで専任媒介契約を結んでしまった売主にも落ち度があります。不動産会社が実はこう考えているということを頭に入れておき、せめてご自分でも「相場価格」を把握するという姿勢が重要です。

売却時、どうやって業者を選ぶのが得策か?

では、どのようして業者を選んでいけばよいのでしょうか?

おすすめは、最初の1ヶ月間限定で一般媒介契約で複数の業者に依頼してみることです。その中で対応が良いと思った業者があれば、途中で1社に絞り、専任媒介としても良いと思います。

この時、初めからはっきりと「一般媒介で複数の業者にお任せして、対応が良かったところと専任媒介を結びたいと思っている」と言っても大丈夫です。それに対して、「専任媒介でなければやる気がでません」というような業者は、仮に専任媒介で契約してもしっかり対応してくれないでしょうし、そんな業者は切ってしまってよいでしょう。

また、信頼のおける業者を既に見つけてある場合も、1社のみ一般媒介でスタートしても良いです。このメリットは、一般媒介の場合、レインズという不動産流通標準情報システムに登録する義務がないため、未公開の状態で買い手を探すことができます

レインズに載せてしまうと「物件の鮮度」のカウントダウンが始まってしまうので、物件の需要を探るためにも水面下で動ける期間があった方が良い場合があります。

この方法であれば、途中から専任にしてもいいですし、一般媒介を継続してもいいですし、途中から他の業者へ追加で依頼しても良いので、売主側の自由度は高くなります。また、不動産会社の良し悪しを見極めることもできます。

最初から専任媒介契約というのだけは、仲介する不動産会社にしかメリットがありませんので、よほどの理由がない限りやめておいた方が良いでしょう。

専任で預かるために、色々な付加価値を付けようとする不動産会社もいますが、彼らの利益となる仲介手数料より少ない金額の付加価値しか付けられないはずですし、「そこまでして専任でやりたがる理由が何なのか?」という疑問を持ちましょう。

ということで、 今回は以上となりますがいかがでしたでしょうか?

不動産会社の言うことを鵜呑みにせず、相場観を養っておくということと、最低限の不動産リテラシーをしっかり身につけ、ご自分の資産や権利をしっかり守りましょう。

次の講義へ