転ばぬ先の杖!相続準備を先延ばしにしていませんか?

皆さんは「相続」について、真剣に考えられたことがおありでしょうか?

「財産なんて家くらいだし、いくらにもならないよ」

「ウチは家族の仲がいいから大丈夫」

「まだそんな歳でもないし、縁起でもない・・・」

そして、心のどこかで「自分には関係ない」と思っていませんか?そんな相続について、今回のコラムが考えるきっかけになれば幸いです。

【コラムニスト】

 ファイナンシャルプランナー 三井明子

●相続はお金持ちだけの話ではありません

人が亡くなる時、必ずといっていいほど相続は発生します。

相続税を払う人だけが対策をすればいい、と誤解をしている方が多いのですが、

「ウチには大した財産は無いから、相続税を払う必要もないし・・・」

という方こそ、実は準備が必要なことがあります。

なぜなら、例え預金が10万円でも「相続」は発生し、それをどうやって分けるかで揉めるときは揉めるのです。


相続で考えなければいけないのは、主に次の3つのテーマについてです。

(1)分割対策(誰と何をどうやって分けるか考える)

(2)評価減対策(いわゆる節税対策)

(3)納税対策(相続税を払えるように現金を準備する)


(2)と(3)については、相続税がかかりそうな人が真剣に考えるべき内容ですが、(1)については全員が考えて準備しておくべき内容です。

特に、主な相続財産が実家などの不動産(家屋と土地)のみ、という時こそ大変です。なぜなら、家を兄弟姉妹で2等分とか3等分にすることが難しいからです。不動産を売却して現金化できる場合はまだ良いですが、何らかの理由で不動産としてそのまま相続人の誰かが相続したい場合は、その不動産の価値に相当する金額を現金で他の相続人へ渡さないといけないことが多いからです。(これを代償分割と言います。)


次のような事例を想像してみてください。

【事例】

売却すると3,000万円になる「家屋と土地」(実家)を親と同居していた長男が相続した。

他に相続財産は無いので、次男と長女はそれぞれ代わりに1,000万円を現金で渡すように長男へ申し出る。

長男は実家を受け継ぐ代わりに、急に現金2,000万円を用意しなくてはいけなくなった!

そんなお金は無いし、自分の子どもが来年大学入学を控えていて、少しでもお金が必要なタイミングだ。

実家を売ったら住むところが無くなってしまう・・・なんとかしばらく待ってくれないかと弟妹に頼むが・・・

次男:「兄さんは実家に住んで家賃もかかってなかった!こっちは住宅ローンもあるんだよ。」

長女:「うちも娘は私立に通いたいのよ。兄さんの子どもは父さんと母さんによくしてもらってたじゃない。」

と、一歩も譲る気はない。

長男は、「最後、両親の介護をしていたのは自分なのに・・・」と反論するも、お互いに歩み寄れない・・・。


このようなケースは決して他人ごとではありません。今は仲が良くても、年数が経てば、それぞれの家庭の事情も変わります。口には出さなくても、長年積もり積もっていた不満や妬みは、一度爆発し始めたら止めることは難しいのです。

相続が「争続」になるのは、財産を持っていた当人が亡くなっていて、その人の「考えや想い」をもう聞くことができないから。そして、「誰にとっても正しい答え」というものが無いからです。

上記の例の主張は、どちらにとっても真っ当な主張であり、どちらも間違っているわけではない。だから相続は難しいのです。

●そもそも誰が相続人?

ところで、皆さんはご自分の場合、誰が相続人かご存じでしょうか?

下記のような家族構成の場合、ご自身が亡くなった時は、まず配偶者が相続人となります。

相続の第1順位は子どもになりますので、お子様がいらっしゃる時は、配偶者が2分の1、子ども全員で2分の1を相続します。仮にお子さんが2人いる場合は、子ども同士で均等に分けるので、お子様は4分の1ずつとなります。

お子さんがいらっしゃらない場合は、配偶者が3分の2、第2順位の両親が3分の1を相続します。お子さんもご両親、祖父母もいない場合、配偶者が4分の3、第3順位の兄弟姉妹が4分の1を相続します。


特にご遺言を残されていない場合は、争続を避けるために、この法定相続通りに分けるという方が多いです。

もし遺言書が残っていた場合は、相続財産の持ち主は故人ですから、故人の意思が法律より優先されます。しかし、遺言書の内容が極端だった場合(例えば「全財産を内縁の妻に譲る」など)、残された家族のその後の生活や心情に配慮し、そのような場合でも法定相続分の2分の1は権利(「遺留分」と言います)を主張することができます。

つまり、法定相続人以外の人に全財産を譲るという遺言を残しても、配偶者と子は4分の1ずつは権利を主張できるということです。ただし、兄弟姉妹にはこの遺留分請求の権利はありません。こうしたことをしっかり理解しつつ、法定相続人の権利に配慮して遺言書を残すことが重要です。

また、遺言書は法律(法定相続分)より優先されますので、その内容を覆すことは容易ではありません。相続人全員の同意があれば可能ですが、誰か一人でも遺言の通りと主張すれば覆せません。遺された家族が、その後仲違いしないようにしっかり検討し、できれば生前にその意図を伝えて、お互いの考えや想いを理解しておくことが重要です。

●特に遺言書が必要なのは、お子様がいらっしゃらないご夫婦

一概には言えないのですが、特に遺言書を残した方がよい場合として、お子様がいらっしゃらないご夫婦があげられます。

たとえば、下記のような家族構成の場合です。

老後に差し掛かるころ、既にご両親とお姉さんが他界していましたが、若いころに貯めた資産が4,000万円あり、なんとかご夫婦の老後の生活費を準備出来ている状態でした。ところが、ご主人が突然脳卒中で亡くなり、奥様は心細くも、ご主人様が遺してくれたお金でなんとか生活を立て直そうと考えていました。

ところが、ご主人様の49日に突然見知らぬ若者が家にやってきて、相続財産の4分の1の権利を主張します。それは会ったこともない義理の姉の息子、つまり甥でした。

義理の姉が生きていたら、4分の1を渡さなければならないことは理解していたものの、その義理の姉の権利が子どもである甥に引き継がれること(これを代襲相続といいます)を知らなかったのです。

しかし、奥様の心情として、自分から遠い関係にある甥に、ご主人様が遺してくれた財産の4分の1を持っていかれることに抵抗があることは十分に理解できます。おそらくご主人様もそのようなことを望まれていなかった可能性が高いでしょう。

実は、この事態は、「奥様に全財産を譲る」という内容の遺言書が一つあれば、避けられたのです。もしそういった遺言書が残っていれば、先ほどご説明したとおり、兄弟姉妹には「遺留分」がありませんから、甥は1円も請求できなくなります。

兄弟姉妹がご存命だったとしても、財産は奥様へ全て遺したいと考えていらっしゃる方は多いのではないかと思います。奥様とご自分の兄弟姉妹がそれほど親密ではない場合など、哀しみの中、相続の話し合いで奥様が疲弊しないように準備しておかれることも大事ではないでしょうか。

もちろん、奥様に兄弟姉妹がいる場合は、同様にご主人様のために遺言書を書いておかれると良いと思います。

こういった「思わぬ落とし穴」が相続の際にはよく発生します。様々なパターン、それぞれのご事情に合わせて、かなり複雑なことになる場合もあるので、心配な方は、どのような対策が必要か事前に専門家に相談されておかれると安心です。

●相続対策は、発生する前にしかできない

また、相続税がかかりそうな方は、税金対策も必要になってきます。

2021年2月時点の税制では、相続税は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」まではかかりません。つまり、法定相続人がお子様2人という場合は、4,200万円までの相続に対しては税金がかからないということです。

相続税がかかるかも・・・という方は、財産の評価を下げる工夫(現金を評価額を下げられる不動産に変えておくなど)を行ったり、生前に贈与をするなど色々な対策を行うと良いのですが、いずれにしても相続が発生する前しかできないことです。


また、ご自身の相続対策であれば、ご自分の意思で進められると思いますが、ご両親から相続を受ける場合に、兄弟姉妹と揉めたくないなどの場合は、ご両親に対策を行っていただく必要があります。なかなか、ご両親に「相続のことを考えて欲しい」と言うのは、言いにくかったりするものです。それはご自身が直接的な利害関係者でもあり、ご両親の死を願っているわけでもないからです。

さらに、日本の文化として、家族内でも預貯金などのお金の話をタブーとする傾向があります。ご両親の世代だと、よりその傾向が強い場合があります。なかなか冷静に話を聞いてくれなかったり、自分事として真剣に考えてくれなかったりもします。

実は、こういった場合でも、「利害関係の無い第三者である専門家」が間に入ることで、スムーズに話し合いが進むケースは多いです。ご両親も本心では、ご自分の死後、家族が争っていたり、悲しんだり、困っているのは嫌だと思っているからです。

もし、ご家族の間で、ふと相続に関する話題が出るようなことがあれば、一度専門家に相談してみることをお勧めすると良いかと思います。私もファイナンシャルプランナーとして、様々な相続のご相談をお受けし、相続に強い税理士と一緒に何度も話し合いの場に立ち会わせていただきました。あたらめてご家族への感謝の想いを伝える機会になることもあり、元気なうちに想いを伝えておけて良かったとご安心いただけたのが、一番嬉しかったです。お子様方も、あらかじめご両親の考えを聞くことで、ご兄弟で支え合って仲良くやっていこうと、ご両親の介護の負担について、またお墓の管理を誰がするかなども、合意のうえで事前に決めていくことができるので、いざという時に慌てることも少なくて済みますよ。


さて、今回はここまでとなりますが、いかがでしたでしょうか?

皆さんも、ぜひ一度、自分ごととして「相続」というテーマをしっかり考えていただければと思います。

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