確定拠出年金で退職所得控除を最大限活用!

給与や賞与と同じように、退職金にも所得税や住民税がかかります。

ただし、退職金には「退職所得控除」といって、税金がかからない範囲が設けられていて、その範囲内であれば税金はかかりません。

退職所得控除を最大化するには、「勤続年数」を長くすることが重要です。

確定拠出年金(企業型・iDeCo)をうまく活用すれば、「勤続年数」を伸ばしたり、使い切れなかった退職所得控除を活用することも可能です。

(※このコラムは2020年時点の税制に沿って解説しています。個別の税務計算は税理士にご相談ください。)

【コラムニスト】

 ファイナンシャルプランナー 三井明子

●退職金を一括で受け取る場合に使える「退職所得控除」とは?

退職金を一括で受け取る場合、そのお金は「退職所得」に分類され、他の所得とは切り離して税金が計算されます。そのため、他の所得との合算による累進課税の影響を軽減することができます。(退職金にかかる税金は、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出することで、退職金から天引き(源泉徴収)されますので、基本的に確定申告をする必要はありません。)

退職金は、長年の勤労に対する報償的給与として支払われるもので、老後の生活を支えるものでもあることから、税金の負担を軽くするよう、「退職所得控除」を差し引いた残金の1/2が課税の対象となっています。

課税の対象となる退職所得金額=(退職金-退職所得控除額)×1/2

(※役員等勤続年数が5年以下の人には上記計算式の1/2計算の適用はありません。)


退職所得控除は、税金がかからなくなる部分の金額なので、この額が多くなるほど税金は軽くなります。

退職所得控除の計算式は「勤続年数」によって変わります。

<勤続年数が20年以下>

 退職所得控除の額=40万円×勤続年数(※ただし、80万円に満たない場合は、80万円となる)

<勤続年数が20年超>

 退職所得控除の額=800万円+70万円×(勤続年数-20年)

※勤続年数が10年2ヶ月など、端数がある場合は1年に切り上げて勤続年数11年として計算します。


例えば、勤続年数が30年の人の場合、

退職所得控除=800万円+70万円×(30年-20年)=800万円+70万円×10年=1,500万円

となります。

もし退職金が3,000万円の場合、課税される「退職所得金額」は

(3,000万円-1,500万円)×1/2=750万円

となりますので、この750万円に対して所得税と住民税が課せられるということになります。

逆にに言うと、3,000万円-750万円=2,250万円までは非課税で受け取れるわけです。


つまり、企業独自の退職金制度においては、長く勤めた方が税制上は有利ということになりますが、終身雇用の風潮が薄れていく中で、転職する人が不利にならないように、確定拠出年金制度への移行を行う企業も増えています。

確定拠出年金は、転職や退職をしても資産を移管して持ち運べるというのが特徴です。企業型の確定拠出年金に加入していた人が、転職や退職により個人型確定拠出年金(iDeCo)に資産を移管する、あるいはその逆パターンというのはよくあります。

そして、確定拠出年金(企業型・iDeCo)においても、一括受取を行う場合には、この「退職所得控除」を受けることができるのです。

確定拠出年金における「勤続年数」の考え方

退職所得控除は「勤続年数」を基に算定されるわけですが、確定拠出年金においては「勤続年数」はどう考えればいいのでしょうか?

確定拠出年金における「勤続年数」は、

・企業型確定拠出年金

・個人型確定拠出年金(iDeCo)

の加入者期間を合算した期間(他制度からの資産移換に伴い算入した期間を含む)とされています。(所得税法施行令第69条第2項)


なお、企業型確定拠出年金と個人型確定拠出年金(iDeCo)に同時加入している場合は、加入者期間の長い方に重複していない期間のみを合算します。また、掛け金を拠出せず、運用指図だけを行っていた期間は含まれませんのでご注意ください。


つまり、確定拠出年金において老齢給付金を一時金として受け取ることを念頭に置くと、加入者期間(=掛金を拠出する期間)をできるだけ長くして退職所得控除額を最大化することが税制上は有利です。そのため、例えば転職等により企業型確定拠出年金の資産をiDeCoに移換する際は、運用指図者ではなく加入者としてiDeCoに加入し、少額でも良いので掛金拠出を継続しておくことが得策です。

●企業の退職金と確定拠出年金の両方を受け取る場合は?

企業の退職一時金と確定拠出年金の老齢給付金を、どちらも一括で受け取る場合はどのように考えればいいのでしょうか。

この場合は、勤務先から支給される退職一時金と確定拠出年金の老齢給付金を合算し、退職所得として計算します。確定拠出年金では、加入者期間を勤続年数と読み替えます。(運用指図者としての拠出を中断した期間は含みません。)

ですが、企業に勤めながら個人型確定拠出年金(iDeCo)を続けた場合などは、重複期間がありますので、下図のように計算します。

まずは、同一年内に受け取った場合ですが、これはわりとシンプルです。

次に、ちょっとタイミングをずらして受け取った場合です。

確定拠出年金の老齢一時金を受給する前に退職一時金を受給している場合は、前年以前14年に遡って退職所得を調整します。

この際、退職一時金を受給した時に、退職所得控除を使い切ったか、使い切っていない(使い残しがある)かで、計算の仕方が変わります。

少々ややこしいので、苦手な方は飛ばしていただいても構いません。要するに、使い切っていない退職所得控除があれば、それを考慮したうえで「勤続年数」がカウントされますよ、ということなので、安心してください。

以前に退職一時金を受け取った際に、退職所得控除を使い残していた場合は、それを考慮するために下図の中にある計算式で「みなし勤続年数」を計算して、控除額が調整されます。

●退職金や確定拠出年金を年金受取した場合は?

分割して年金として受け取る場合は、年金の収入金額に対して「公的年金等控除額」が適用され、公的年金等と合算されて計算されます。(詳しくは別のコラムで解説したいと思います。)


当協会では、「退職金を一時金として受け取るのと年金として受け取るのでは、どちらがお得か?」というご相談をよくお受けしておりますが、これは一概には言えません。

なぜなら・・・

・確定拠出年金の加入者期間や運用状況はどうか

・住宅ローンがあるかどうか

・その時の金利はどの程度か

・老後も資産運用を続けられるおつもりか

・ご家族構成はどうなっているか

・老後のセカンドライフをどのように過ごそうと思われているか

・ご性格や価値観によってどちらが適しているか

・ご健康状態はどうか(長生きされる可能性が高いか)

など、様々な個別の事情や要素を加味したうえで「何が最適か」を考える必要があるからです。


お若い方は、確定拠出年金(iDeCo)などを併用した資産形成を計画的に行っていただき、長期分散投資と節税のメリットを十分に享受していただければと思いますし、ある程度長くお勤めの方は、セカンドライフの収支シミュレーションを早めにやっておかれると安心かと思います。


無理のない資産形成のご相談や、セカンドライフの収支シミュレーション、自分の場合はどんな風に退職金を受け取るのが良いと思うか、といったご相談も、「FPによる個別相談(ライフプランとリスクマネジメント)」でお受けしておりますので、気になる方はぜひお気軽にお申し込みください。


今回は、以上となりますが、いかがでしたでしょうか?

皆さんの人生が、安心で豊かなものとなりますように!

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