企業型確定拠出年金とiDeCoの違いは?

選択制の企業型確定拠出年金(以下、「企業型DC」と言います)と個人型確定拠出年金(以下、「iDeCo」と言います)にはどんな違いがあるのでしょうか?

どちらも「確定拠出年金」なので、基本的な仕組みは一緒ですが、違いもあるので整理していきましょう。

【コラムニスト】

 ファイナンシャルプランナー 三井明子

●選択制の企業型確定拠出年金(DC)とは?

導入する企業が増えた「選択制の企業型DC」ですが、個人で加入する「iDeCo」とどんな違いがあるのでしょうか?

そもそも企業型DC制度は「企業年金制度」の一つであり、会社が退職金制度の一環として導入して掛金を負担するものです。しかし、掛金の「運用」については加入者である「社員」が自分の責任において行う必要があります。ある程度の金融リテラシーを身に付けてからでないと、積極的な運用や活用に繋がりにくいというここともあり、加入者が掛金を上乗せして拠出できる「マッチング拠出」のDCや、そもそもDC制度を利用するかどうかを社員が個別に選択できる「選択制の企業型DC」という制度が整備されてきました。

【企業型DCの種類】

(1)企業型DC…掛金を事業主(会社)が全額負担

(2)マッチング拠出…事業主掛金に加えて加入者本人(社員)も掛金を上乗せで拠出できる

(3)選択制企業型DC…給与の一部を前払退職金として現金で受取るか、企業型DCに拠出するか選べる


<マッチング拠出のポイント>

・事業主掛金に加えて加入者本人(社員)も掛金を上乗せで拠出できる

加入者掛金は事業主掛金と同額以下

・iDeCoを併用できない

・加入者掛金は、社会保険料の算出の対象となるが、所得税や住民税などの税金はかからない


マッチング拠出では、事業主掛金が小さいと、社員が上乗せできる掛金も少なく、マッチング拠出をした場合はiDeCoを併用できないため、事業主の掛金を多く設定できない場合は、社員が確定拠出年金制度の恩恵を受ける機会を奪ってしまう事にもなりかねません。

また、加入者がマッチング拠出する掛金は、給与から天引きされますが、社会保険料(健康保険・厚生年金保険など)の算出対象となるため、社会保険料を軽減することはできません。ですが、全額所得控除となるので、拠出した掛金に所得税や住民税などの税金はかかりません。


<選択制企業型DCのポイント>

・加入(掛金拠出)するかどうかは社員一人一人が自由に決められる。

・掛金も各自が自由に設定でき、定められた限度額まで自分の意思で増減できる(変更は年2回まで)

・iDeCoと併用できる(※2022年10月以降)

・掛金したお金には社会保険料も税金がかからない。


選択制企業型DCは、その名の通り、制度を使うかどうかを選択できますので、企業側としても導入のハードルが低く、近年多くの企業で採用されています。

また、これまでは企業型DC加入者のうちiDeCoに加入できるのは、iDeCo加入を認める労使合意に基づく規約の定めがあり、かつ事業主掛金の上限を引き下げた企業の従業員に限られていましたが、確定拠出年金法の改正により、2022年10月からは、企業型DCの加入者はiDeCoに原則加入できるようになります。

(※併用する場合、確定給付型年金が無ければ、iDeCoの拠出上限は5.5万円から企業型DC掛金を引いた額となり、最大で2万円までとなります。)


また、マッチング拠出やiDeCoと一番大きく異なるポイントは、掛金に「社会保険料」がかからない(算出の対象とならない)というところです。

●企業型DCの場合、社会保険料が軽減される?

選択制企業型DCとiDeCoの一番大きな違いは、掛金に対して「社会保険料」がかかるか、かからないかという事だと思います。

会社員の方は、給与や賞与から「厚生年金保険料」や「健康保険料」といった社会保険料が天引きされていることをご存知かと思います。これらの社会保険料は収入金額(標準報酬月額)によって、等級1~50に区分され、等級ごとに払う社会保険料が決まっているという仕組みです。

なお、標準報酬月額は基本給に加えて諸手当(扶養手当、地域手当、通勤手当、寒冷地手当等)を合算した額のことです。同じ基本給でも、扶養の状況や各種手当の額で等級が異なる場合がありますのでご留意ください。

都道府県によって若干異なりますが、「全国健康保険協会(協会けんぽ)」のWebサイトに各等級ごとの社会保険料の額が掲載されていますので、参考にして下さい。

<外部リンクPDF> 全国健康保険協会-令和3年度保険料額表(東京都)

一部を下記にも抜粋して掲載します。

ご自分の等級が何等級か分からない場合は、給与明細で厚生年金保険料と健康保険料の額を確認することで、自分の等級と標準月額がいくらかが分かります。

上表のように、収入(報酬月額)がどの等級に該当するかで社会保険料が決まっていますので、境界付近の方は収入の多少の上下でも等級と社会保険料が変わるというわけです。例えば、報酬月額が35万円ちょうどの人は25等級の社会保険料を払わないといけないのですが、報酬月額が34万9千円の人は、24等級の社会保険料を支払えばよいわけです。

ここで、改めて考えていただきたいのですが、企業型DCで拠出した金額は、初めからお給料ではなかったものとみなされるため、報酬月額の計算から差し引かれるということです。ご自身の報酬月額や等級を確認し、「どのくらい拠出すれば等級を下げられるのか?」ということをチェックしていただきたいのです。

等級ごとの報酬月額の幅は2万円~3万円が中心で、報酬が高くなるほど幅も大きくなります。したがって、社会保険料を節約したいと思ったら、拠出する額を2万円~3万円以上で設定されると良いかと思います。あまりに少ない金額を拠出しても、社会保険料の減少には繋がらない場合があります。

●どのくらい社会保険料が削減できるの?

先ほどの表で、25等級の方(40歳未満と仮定)を例に考えてみましょう。

標準報酬月額が36万円だった方の社会保険料は、健康保険料17,712円+厚生年金保険料32,940円=50,652円となります。

この方が毎月2万円を企業型DCで拠出した場合、標準報酬月額が34万円となりますので、社会保険料は、健康保険料16,728円+厚生年金保険料29,280円=46,008円です。

その差は、1ヶ月あたり4,644円ですが、1年で55,728円、20年で111万4,560円にもなります。

さらに、税務上も給与収入額が変わってきますので、その分所得税や住民税の負担額も減ることになります。

●でも、将来受け取れる公的年金が減っちゃう?

企業型DCで拠出することで、税金(所得税や住民税)だけでなく、社会保険料の負担も減らせる場合があるということで、良いことづくめのような気がしますが、気を付けないといけないこともあります。

厚生年金保険料の納付額が少なくなるということは、その分将来受け取れる老齢厚生年金の受給額も下がるということです。実際にどのくらい減るのか確認してみましょう。

厚生老齢年金の報酬比例部分は、次の式で概算を計算できます。(※賞与がない場合)

<計算式>

標準報酬月額×5.481÷1000×加入月数

したがって、企業型DCで毎月2万円を30年間拠出し続けた場合は、標準報酬月額の差から

2万円×5.481÷1000×12ヶ月×30年=39,463円(年額)

ほどの差が老齢厚生厚生年金に生じることになります。

年額ですので、それほど大きな差ではありませんが、65歳から85歳までの20年間受給するとしたら、約79万円ほどの差になります。

前項で、25等級の方が30歳から60歳までの30年間毎月2万円を拠出した場合、社会保険料の負担軽減だけで1,671,840円になりますから、85歳まで生きられたと仮定した場合は、社会保険料を軽減した方が、手取りは多くなりそうです。

もちろん長生きをされた場合は、逆転することも考えられますが、所得税や住民税の負担軽減も合わせて考えると多くのケースでは拠出した方がトータルの収支がプラスになると思います。標準報酬月額が高い人ほどその傾向は強まると思いますので、ご自身のケースに当てはめて計算してみてください。

●拠出した掛金をしっかり運用しましょう!

ここまでで、拠出した方が社会保険料や税金の負担が減り、トータルで考えてもメリットの方が大きい場合がほとんどということはご理解いただけたでしょうか?

でも、拠出したお金を、預金と同じような元本保証型の商品に入れて運用しないでいるべきか、株式や債券などで運用して増やすべきか悩まれる方もいらっしゃいますよね。そんな方はぜひマネーセミナーの動画をご覧いただき、長期分散投資についてしっかり理解を深めてください。

確定拠出年金は、運用期間中、運用益を非課税で再投資できるのも大きな魅力です。

毎月2万円を30年間拠出すると合計で720万円になりますが、もし平均利回り1%で運用できれば約839万円、平均利回り3%で運用できれば約1,165万円になります。

インフレ対策としても、長期分散投資の基本的な考え方をぜひ理解してチャレンジしてみてください。


さて、今回は以上となりますが、いかがでしたでしょうか?

iDeCoよりさらに魅力のある企業型DCですが、60歳まで(65歳までの場合もある)使えないということは同じですので、今後のライフプランをしっかり立てたうえで、どのくらいの金額を拠出して大丈夫なのか、しっかり確認してから行いましょう。

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