要注意!夫婦間でも贈与税がかかるケース

ご夫婦にとって、財産は二人で協力して一緒に築いていくものという感覚が強いと思います。実際に家計に関するご相談を受けていると、お金の管理はどちらかに任されていたり、収入を合算して管理していることも多いです。そのような状況下では「これはどちらのお金か?」と考えることは少ないでしょうし、「夫婦間のお金のやり取りに税金がかかるはずがない」と思っていらっしゃる方もいるかもしれません。

しかし、実は夫婦の間であっても、贈与税がかかるかかるケースがありますので、早速見ていきましょう。

(※今回のコラムは2021年3月時点の税制に基づき記載しています。)

【コラムニスト】

 ファイナンシャルプランナー 三井明子

●うっかりではすまない?!夫婦間でも贈与税がかかるケース

夫婦は家族として一緒に生活をしているので、全てが共有財産のような感覚を持つことは多いと思います。しかし、法律的には、夫婦であっても財産を無償であげるという行為は贈与にあたり、金額によっては贈与税を払わないといけないケースがあります。

年間110万円までの贈与に対しては控除があるため、その範囲内であれば税金を支払う必要はありませんが、それを上回る贈与を受けていた場合は、翌年の3月15日までに申告と納税をしなければいけません。

国税庁によれば、贈与税がかからないケースを「扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの」と定めていますので、これらのためにお金を渡しても贈与にはあたりません。

しかし、これ以外の、例えば下記のようなケースは贈与にあたり、金額によって贈与税を払う必要が出てきます。

(1)高額なプレゼント(高級車、宝石、高級時計など・・)

例えば、結婚10周年記念などの特別なイベントの時に、これまでありがとうという感謝の気持ち込めて高額なプレゼントをあげたことはないでしょうか?(私はもらったことが無いですが・・)

例えば、実質的に夫婦で使う車だったとしても、夫がお金を出し、プレゼントとして妻の名義で車を買ってあげたというケースなどは注意が必要です。日常の生活の足として使うファミリーカーであれば問題ないとされることがほとんどですが、これが高級車だった場合や2台目の車だったという場合には、贈与税がかかる可能性があります。

また、贈与税は受け取った側にかかる税金なので、夫婦以外の方からも特別に高額な金品をいただいて、同じ年に合計で110万円以上の贈与を受け取っている場合は、贈与税の申告が必要かどうか、念のため確認しましょう。

ちなみに、結婚式のご祝儀やお葬式の香典などで合計110万円を超えたというケースはよくあると思いますが、「個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物又は見舞いなどのための金品で、社会通念上相当と認められるもの」であれば贈与税はかからないとされています。

(2)不動産の持ち分が取得費用の負担割合を超える場合

ご自宅などの不動産を購入された場合に、ご夫婦で持ち分を設定し、二人の名義になるようにしていることはよくあります。

「仲良く半分半分ということにしよう」と持ち分を1/2ずつに設定した場合、夫婦で同額のペアローンを組んでいるのであれば問題ないですが、例えば、妻が頭金だけ出して、住宅ローンは夫単体で組んでいるという場合に、費用の負担割合と持ち分が揃っていなければ、差額が贈与にあたるとみなされます。

不動産や車など、「名義」をしっかり残すものは、「あげる、もらう、の意思はなかった」というわけにもいきませんし、「知らなった」では、納税の責任を逃れることはできないのです。

(※後述しますが、婚姻期間が20年以上の場合は、居住用不動産の贈与に関する特例が使えます。)

(3)保険料を負担していない保険金を受け取った時

生命保険では、亡くなった時以外にも、満期を迎えた時にお金を受け取れるタイプのものもあります。生命保険契約の満期や解約により保険金を受け取った場合には、保険料の負担者、保険金受取人が誰であるかにより、所得税、贈与税のいずれかの課税の対象になります。

契約者(=保険料を負担する人)と満期保険金受取人が同じ場合の税金の種類は「所得税」となりますが、契約者と満期保険金受取人が異なる場合は「贈与税」の対象となります。

保険金の受取人を契約当初に設定する時や、契約の途中で変更する際は、担当者に課税関係がどうなるかも合わせて確認し、どうするのが最適なのかを相談しましょう。

(4)夫婦の口座間でのお金の移動

少額の移動であれば、生活費としてみなされることが多いですが、少しずつ貯めたお金を整理しようとして、数百万とか数千万という単位で夫婦間でお金を動かした場合は、贈与とみなされる可能性もあり、税務署の調査が入ることもあります。

税務署は相続が発生した場合などには、過去の銀行口座の履歴などを調べることができますから、贈与を指摘された場合に「贈与税がかかるなんて知らなかった」という言い分は聞いてもらえません。

場合によっては、延滞税などのペナルティが課せられることもあるので、注意しましょう。

●専業主婦のへそくりにも税金がかかる?!

専業主婦の妻が、夫から生活費として毎月50万円を受け取り、その中から10万円を妻名義の口座でこっそり貯金していた場合は、どうなるでしょうか?

この場合は、「あげる」「もらう」という意思が無く、一時的な貯金であり、近い将来の生活費や教育費として使ったり、旅行など家族で使うのであれば、贈与には当たらないと考えられています。ただし、このお金で妻が株や金融資産などを購入した場合には、生活費ではない使い道のお金をもらったということになりますし、贈与とみなされる場合もあるので、注意が必要です。

また、結果的に長年の「へそくり」が生活費の余りとは言えないレベルに高額になってしまい、そのまま夫が亡くなった場合は、妻名義の口座に入っていても夫の財産(名義預金)として見なされ、相続税の課税対象となる場合があります。

過去にそういった判決が実際にあり(国税不服審判所 平成19年10月4日 裁決事例集No.74参照)、「夫婦間において、家庭生活を妻に委任し、その費用を妻に渡すことや一定の預貯金の管理運用を妻に任せることはあり得ることであるが、その事実をもって、任された妻の財産になるわけではない」という判決になっています。

では、夫が生活費を渡す際に「余った分は使っていいよ」と言っていたらどうでしょうか?「これは余った分をあげるってことだから年間110万円までは非課税でもらってもいいのでは?」と思いがちですが、これについても贈与にはあたらず、直ちに妻の固有財産とは言えないという別の判例があります。生活費の法的性質は夫婦共同の資金なので、「余ったら使っていい」という言葉が直ちに贈与を意味するものではないという解釈なんですね。へそくりは妻の預金ではなく、夫婦の生活費の余剰とみなし、収入を得ていたのが夫だけであれば、夫の相続財産になるということです。

専業主婦(夫)の方の中には、収入は無くとも、内助の功によって節約をして家計を支えているという方も多いので、こういった判決にやるせなさを感じる方もいらっしゃるかもしれません。内助の功に感謝し、きちんとお金を贈与したい(あげたい)という場合には、夫婦間であっても生前贈与契約を交わしておくのが一番ですね。そうすることにより、自由に使ったり貯めたりできる名実ともに自分のお金にすることができます。

●贈与税や相続税がかからないケースはあるの?

夫婦の間でも自由にお金を動かせないというのは、何だか堅苦しくて嫌だなぁと思われる方も多いと思います。逆に下記のような場合には、贈与税がかからないので、ご安心ください。

(1)生活費や教育費に充てるためのもの

日常生活費に必要なお金や教育費では学費や教材費、文具費など、通常必要と認められるものは贈与にあたりません。

(2)婚姻期間20年以上の夫婦の間で居住用不動産を贈与した時

別名「おしどり贈与」とも言われていますが、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例があります。

この特例を使い、夫が購入した家であっても、2,110万円に相当する持ち分を妻の名義にすることが可能です。ただし、この特例の適用を受けるには、必要書類を添付して税務署へ申告をする必要があります。

(3)年間110万円以下なら贈与税はかからない

夫婦間に限らずですが、贈与税には年間110万円の基礎控除がありますので、1月1日から12月31日までにもらった財産の合計が110万円以下の場合は、贈与税がかからず申告も不要です。

ただし、あげる人ではなく、受け取った人のもらった額の合計が110万円までということなので、例えば夫が妻に100万円あげて、同じ年に妻の両親も50万円を妻にあげていたとしたら、妻は150万円をもらったことになるので、贈与税がかかります。

また、後々、贈与の事実を明確にするためにも、家族間であっても贈与契約書をその都度交わすようにしましょう。

(4)相続税の配偶者控除を使う場合

夫婦のいずれかが亡くなった時、それなりの財産があって相続税がかかるような場合でも、配偶者には「配偶者控除」という特例が認められていて、相続税が軽くなるようになっています。

配偶者が相続した財産が1億6,000万円までであれば、相続税がかかりません。もしそれを越えても、法定相続分の範囲内であれば、同じく相続税はかかりません。

ですので、妻の口座に夫が貯金してしているだけ(名義預金)と見なされ、全て夫の相続財産だとカウントされても、合計が1億6,000万円以下なら、相続時に非課税で受け取れます。ですので、夫(妻)の財産は亡くなった時に相続すればいいという場合は、あまり気にする必要はありません。

しかし、お互い生きていて、お若いうちに自由に使いたいという場合も多いでしょうから、そのような場合にはご夫婦の間でもきちんとした形で生前贈与をしておくのが良いと思います。(詳しくは前回のコラム「生前贈与の活用について考える」をご参照ください。)


ということで、今回は以上となりますがいかがでしたでしょうか?

知らなかったでは済まない、贈与税や相続税など基本的な税制についてしっかり押さえておき、分からないことは早めに税理士に相談して必要な対策を打つようにしましょう。

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