妻の収入が高いと遺族年金がもらえない?!

共働きのご夫婦やお子様がいらっしゃらないご夫婦が増えている昨今ですが、「二人とも収入あるし・・」、「子供もいないし何とかなるでしょ」ということで、万一の時のリスクマネジメントが疎かになっているケースが増えています。

人生100年時代において、老後までご夫婦仲良く過ごせたととしても、いずれお別れの時がやってきて、そのタイミングが同時ということはめったにありません。配偶者と死別した時に老後を支える年金がどうなるのが、意外とご存じない方も多いので、今回はそこをしっかり解説していきますね。

【コラムニスト】

 ファイナンシャルプランナー 三井明子

●遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」がある

公的遺族年金には2種類あり、国民年金からは「遺族基礎年金」、厚生年金保険からは「遺族厚生年金」が給付されます。遺族基礎年金と遺族厚生年金は、目的や意味合いが違い、受給できる対象や要件が大きく異なります。

ざっくり説明すると次のようにイメージです。

「遺族基礎年金」・・・子どものためにあり、「子」のない配偶者には支給されない。

「遺族厚生年金」・・・(主に妻の)生活維持のために支給される。

遺族年金については、男性が外で働き、女性が専業主婦という日本の高度成長期以前のモデルが元になっているので、残されたのが妻である場合に、手厚い制度になっています。ただ、時代の変化に合わせて少しずつ変化はしてきており、以前は「遺族基礎年金」を夫は受給できませんでしたが、現在は受給できるようになりました。遺族厚生年金については、まだまだ男性が受給できるケースは限定的と言わざるを得ません。

●配偶者の年収が高いと子どもがいても支給されない?!

遺族年金は、「亡くなった人に生計を維持されていた」というのが基本的な支給要件となります。

この「生計を維持されていた」という定義について、日本年金機構のWebサイトでは下記のように記載されています。

1.同居していること(別居していても、仕送りをしている、健康保険の扶養親族である等の事項があれば認められます。)。

2.加給年金額等対象者について、前年の収入が850万円未満であること。または所得が655万5千円未満であること。

すなわち、配偶者の年収が850万円を超えている場合は、子どもがいても遺族年金は受給できません。近年は、晩婚化が進み、キャリアを積んでから結婚したり子どもを産む女性も増えてきました。多くの方が50歳前後で年収が一番高くなりますが、その時期に子育ての真っ最中ということも多いのです。短い期間で教育費と老後資金を貯めようとご夫婦で一生懸命働いている時に、パートナーに万一のことがあったらたちまち困ってしまいます。配偶者の年収が子育ての最中に850万円を超えそうだという方は特にご注意ください。

なお、ご自身の場合「遺族基礎年金」が支給されるかどうかは下記のフローチャートで確認してください。

ご年収が高い方は、それなりに支出も多くなっていることが考えられます。特に共働きの方は、ご夫婦の収入に合わせて住宅を購入してローンを組まれ、生活をし、お子様の教育計画などを考えられていると思うので、どちらかの収入が無くなった時に、「遺族年金だけで大丈夫か?」あるいは、「遺族年金が出なくても大丈夫か?」という事は一度しっかり考えていただければと思います。

●子どもがいなくても受け取れる「遺族厚生年金」

遺族基礎年金は、子どもの養育ための年金であり、子どもが18歳を超えていたり、いないという場合は支給されません。しかし、「遺族厚生年金」については子どもがいなくても支給されます。(「亡くなった人に生計を維持されていた」という前提はもちろん必要ですが・・・)

老後にご夫婦で年金生活をしている場合に、どちらかが亡くなり、残された配偶者が遺族厚生年金を受け取れるかどうかは重要なチェックポイントとなります。

遺族厚生年金については、妻が自分の老齢厚生年金を受け取り始めると、妻のと老齢厚生年金に相当する部分の遺族厚生年金が支給停止となります。つまり、遺族厚生年金(夫の老齢厚生年金の4分の3)より、妻の老齢厚生年金が少ない場合、遺族厚生年金はそれでの差額分のみの支給となります。

妻の平均収入が夫と同じくらいかもしくは多かった場合は、「妻の老齢厚生年金の2分の1」と「夫の老齢厚生年金の2分の1(=遺族厚生年金の3分の2)」を合計した額の方が多い場合があり、その場合は多い額を受給できます。


妻が亡くなった場合、その時点で夫が55歳以上であれば、夫は60歳以降、妻の遺族厚生年金を受給できますが、年収が850万円を超えていたり、65歳以降に受け取る自分の老齢厚生年金の方が多ければ、遺族厚生年金は受け取れなくなります。夫には、現在は「中高齢寡婦加算」のような制度がありませんが、今後ライフスタイルの多様化に応じて改正させる可能性は十分にあると思います。

●老後に夫婦のどちらかが亡くなった時の対応を!

人生100年時代と言われる現代。老後の生活を生きている限り支えてくれる公的年金は強い味方です。夫婦二人の年金を合わせれば、それだけでもなんとか生活していくことは可能でしょう。ただし、ご夫婦のどちらか一方が亡くなった途端に生活が困窮してしまうというケースが多いです。

考えてもみてください。二人で生活するための生活費と一人で生活するための生活費にはそれほど大きな差はありません。携帯代や個人の娯楽費などは一人分減るかもしれませんが、光熱費や食費は半額になったりはしないのです。車が必要なら、二人で使っても一人で使っても費用はほぼ同じです。二人でギリギリの生活だった場合、片方の年金が無くなると生活スタイルを大きく変更しないといけない可能性があります。

下記の標準的なケース(平均的な受給額)でイメージしてみてください。

共働きのケースほど年金受給額が減るインパクトが大きく、年金の額が半分になっても、生活費は半分になりません。専業主婦の方の場合も、一人で月13万ちょっとで生活するのは厳しいと思います。老後は、電球交換や家具の移動など、ちょっとしたことも自分一人で出来なければ、色々なサービスを外注するしかなく、見えないお金がかかってきます。

平均寿命で言えば、男性と女性は8年ほど差があると言われていますが、8年もの長い間この年金だけで生きていくのは大変ですよね。男性の方が年齢が高い場合は、確率的にはもっと長い間一人で過ごす可能性だってあるのです。もちろん、奥様が先に・・という場合もありますし、何年お一人で過ごすことになるかはわかりませんが、もしかしたら「20年くらい一人かもしれない」ということを念頭にセカンドライフの資金計画を立ててください。

例えば、専業主婦の方が一人で残され、上記例の通り年金減少額がひと月あたり8万8千円だった場合、10年分の差額は1,056万円、20年だと2,112万円にもなります。

ご夫婦の場合は、どちらかが亡くなった時に年金額が減少する可能性を考え、以下のような対応を取ることをお勧めします。

<対応策の例>

・お互いに生命保険で死亡保険金を準備しておく(年金減少額の分として1,000万円程度は準備)

・資産価値が残るマイホームを購入し、リバースモーゲージ(自宅を担保にお金を借りる)を利用できるようにする

・iDeCo、つみたてNISA、個人年金などを活用し、公的年金以外の年金を準備する

・老後までに十分な貯金や資産を準備する

・お子様と二世帯住宅等で同居を検討する


いすれにしても、早く対策を取った方が良いですし、何事もなく夫婦で長生きした時のことだけでなく、どちらかに早くに万一があってしまった時のことも合わせてシミュレーションしておくことが大事です。万一あってもなくても、一生安泰といえるプランができるまで、専門家と一緒にしっかり考えましょう。

当協会の認定アドバイザーは、公的年金保険についてはもちろん、民間の生命保険等についても詳しいので、将来受け取れる各種の公的年金の試算や今お持ちの保険の活用方法、不足する保障のご提案などもさせていただきます。ぜひ一度「【個別相談】ライフプランとリスクマネジメント」を受けてみてください。


さて、今回は以上となりますが、いかがでしたでしょうか?

ご夫婦二人となった老後も、お互いを思いやり、パートナーのために万全な対策を取れるようご準備いただくきっかけになれば幸いです。

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