退職金の受け取り方はどうする?!年金にかかる税金

退職を間近に控えている方はもちろん、これから老後の資産形成を考えている方にとっても、老後の収入の大部分を占めるであろう退職金と年金にかかる税金を知っておくことは大切かと思います。今回は、年金受取が可能な、退職金(確定給付型企業年金)や確定拠出年金(企業型・個人型iDeCo)を中心に、見ていきましょう。

(※このコラムは2021年1月時点の税制に基づいて記載しています。税制は今後変更となる可能性があります。)

【コラムニスト】

 ファイナンシャルプランナー 三井明子

●退職金を年金受取する場合の税金のかかり方

企業によっては、退職金を一括で受け取るか、年金受取するか選べる場合があります。今回は年金受取した場合の税金のかかり方について解説していきます。

※退職金を一括で受け取る際の税制優遇(退職所得控除)については、一つ前のコラム「確定拠出年金で退職所得控除を最大限活用!」で解説していますので、そちらをご覧ください。

さて、退職金の他にも年金形式で受け取れるものはいろいろありますが、税金の計算上は大きく分けると「公的年金等」か「それ以外の年金」かの2種類となります。企業の退職金を確定給付企業年金として受け取る場合、また確定拠出年金(企業型・個人型iDeCo)を年金受取する場合も「公的年金等」に分類されます。

詳しくは下図をご覧ください。

上図のように、国の公的年金(国民年金や厚生年金)と同様に、確定給付企業年金も確定拠出年金も「公的年金等」として、「公的年金等控除額」を差し引いて税金が計算されます。

また、生命保険会社などで、個人年金保険や貯蓄性のある終身保険や養老保険などに入られていて、それを年金受取する場合は、「公的年金以外の年金」として、その年金の額に対応する保険料または掛金を必要経費として差し引き、増えた分のみが所得金額としてカウントされます。

●老後の収入に対してかかる税金と控除

現役のサラリーマンだった頃とは異なり、老後の収入源は人によって様々です。

老後は仕事には就かずのんびりと過ごされるという方にとっては、収入源のほとんどは公的年金や企業年金、確定拠出年金、個人年金保険などでしょう。また、老後も元気なうちはしっかり働きたいという方にとっては、給与所得が大きな割合を占めることもあるでしょうし、お若いうちから続けてこられた生命保険の満期金などが入ってきたりもするでしょう。

こういったそれぞれの収入に対して各種の控除が受けられますので、全体像をまずは把握してください。

上図のように、それぞれの収入の種類に応じて、各種の控除を受けたうえで、課税される額(一時所得【D】は1/2後の額)を足して「総所得金額」を出し、そこからさらに「所得控除」も受けられるということですね。それぞれの控除を上手く使うことで、実際にはほとんど税金がかからないといったケースもありえます。

では、上図の【A】の部分を計算する式を見ていきましょう。

●公的年金等に係る「雑所得」の計算方法

年金収入は所得種類としては「雑所得」にあたりますが、「公的年金等」に該当する年金収入の額によって、雑所得となる額(上図の【A】の部分)が変わります。また、65歳未満と65歳以上の方でも異なりますので、下図を参照して計算してみてください。

なお、65歳以上の方は、下図の通り公的年金等の最低控除額が多くなり、税金の負担がより軽減されています。

65歳以上であれば、控除額も大きくなるので、分割して年金受取しても税金に影響しにくいというメリットがありますね。

●年金受取でも運用次第で税金と相殺できる?!

勤続年数が長い方などは、退職一時金として一括で受け取る場合に使える「退職所得控除」の枠が大きいため、公的年金控除にそれほど魅力を感じないという場合もあるかもしれません。企業によっても異なりますが、一般的には年金受取をする場合は未払いの部分について引き続き運用を続けてくれるため、税引き前の総受取額は一括受取より年金受取方が多くなります。利回りは1.5%~3%程度が多いようですので、利回りが高ければ税金と相殺できる可能性もあります。利回りが確定しているものと、変化するものがありますので、よく確認しながら、色々なパターンでシミュレーションしてみると良いと思います。

また、年金受取の期間も、短いよりは長い方が、未払い部分の額や運用期間が延びるので、税引き前の総受取額は多くなります。年金の受取期間を「5年」「10年」「20年」というように、最初に確定させて受け取る「確定年金」という方法の他に、「終身年金受取」といって、「自分が生きている限りずっと受け取り続ける」というように指定できる場合があります。

人生100年時代と言われる長寿社会においては、老後が何十年も続くかもしれません。平均寿命から10年以上長く生きることも十分に考えられます。そうした場合に、手元の資金が尽きてしまうと、非常に不安な日々を過ごすことになります。こういった「長生きのリスク」に備えることも重要で、生きている限りずっと定額の年金を受け取れるという「終身年金受取」は頼もしい味方となるでしょう。

「終身年金受取を選択して早くに亡くなったら損じゃないか?」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、終身年金受取を選択しても「最低○年間は年金を受け取れます」という保証期間を付けることもできますので、配偶者がいらっしゃる場合など、ご自分の死後もお金を残す必要がある場合は、保証期間を何年まで付けられるか、付けた場合にどのくらい年金の受取額が変わるかも合わせて確認しておきましょう。

●損得ではなく、退職金に求める「役割や機能」を考える

退職金は「一括受取」、「年金受取」、その二つを「併用」して受け取る方法があり、「結局どれが一番お得なの?」と聞かれても、主に下記のような理由で一概には何とも言えず、個別にご相談くださいというしかありません。

・ 退職金以外の老後の収入の有無や額でも変わる

・ ご家族構成や扶養の有無などでも変わる

・ 何歳まで生きられるのかは誰にも分からない

・ 住宅ローンなどをあと何年、どのくらいの金利で借りているか

目先の税金のことだけを考えれば、退職所得控除を使い切る範囲で一部を一時金で受け取り、残りを年金受取する「併用型」が良いのではないでしょうか、と答えるしかありません。

しかしそれでは、「年金の受取額が少なくなり長生きした場合にお金に困ってしまう」とか、「一時金を得て気が大きくなってしまい、リタイア直後に散財してしまった」といった、税金の多少の損得とは比べ物にならない大きなダメージを負ってしまう可能性があるのです。


一番シンプルなのは、損得ではなく、皆さんが「退職金に求めるものは何なのか?」という観点で考えていただくことかと思います。

・ 老後の生活を支えるため?(毎月の生活費として使う)

・ 公的年金を受給するまでの生活資金として使う?

・ 老後に起業するための資金として使う?

・ 住宅ローンの返済やリフォーム、住み替えの費用に充てたい?

そうすることで、「一番安心な受け取り方」がどれか見えてくるかもしれません。


とはいえ、退職金の受け取り方は、一度選んだら「後からやっぱり変えたい!」と言っても変えられるものではありません。ご夫婦で考え方が違うこともあるでしょう。老後の人生を左右する重要な決断ですので、なるべく早い段階で一度シミュレーションしながら、専門家の第三者的な視点も交えながらじっくりと考えてみた方が良いですね。


セカンドライフの収支シミュレーションもFPによる個別相談で受け付けておりますし、自分の場合は税金がどのくらいになりそうかを具体的に計算されたい場合は、アフターフォロー」サービスの一環で税理士に相談していただくこともできます。お気軽にご利用ください。


さて、今回は以上となりますが、いかがでしたでしょうか?

お困りのことやご不安なことがありましたら、当協会の認定アドバイザーが親身になって丁寧に対応をさせていただきます。皆さんが心身ともに豊かな人生を最後まで楽しんでいただけますように!

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