コロナ禍と2021年の不動産市場

昨年2020年は一年を通して世界中が「コロナ禍」に苦しめられ、現在もその終息の兆しは見えていない状況が続いています。

こちらのコラムでは、2020年の不動産市場を振り返り、私が不動産の現場に従事しながら感じる現状の考察と2021年の不動産市場の展望をまとめてみました。

【コラムニスト】

不動産コンサルタント 黒田健一

2020年の不動産市場はどうだったか?

<1月~3月>

2019年後半から「オリンピック以降に相場価格が下がる」事を従前から期待していた住宅購入層が「買い控え」を始めた影響と、2月後半からはコロナ問題が顕在化したことを受け、住宅の購買意欲が下がり、在庫が滞留するというかたちで、相場価格、流通量共に緩やかな下降線を描いていました。

<4月~6月>

緊急事態宣言発令と共に、不動産取引は大幅に減少し、例えば首都圏の中古マンション取引数では4月~6月は前年度比-36%という記録的な落ち込みとなりましたが、ステイホームの副産物なのか、実際には物件へのお問合せ数は増えている状況となっていました。

そして5月の連休明け前後から、前月の反動だけでは説明がつかない程の動きが始まり、5月、6月の取引数はV字回復となりました。

<7月~9月>

実態経済の落ち込みをよそに、日経平均株価はジワジワと上昇するなか、例年、猛暑の影響で取引数が落ち込むはずの7月、8月の不動産市場も好調を維持し、9月からの秋の繁忙期にはその勢いが加速を始めます。そしてこの頃には春先にダボついていた在庫数は、すっかり一掃された反面、売却層はこの動きにまだ反応しておらず、新規物件のリリースが少なかった為、昨年末より緩やかな下降線を描いていた相場価格は再び上昇基調にシフトしました。

<10月~12月>

2020年後半からの好況を実感した売却層が再び動き出し、在庫数が回復し始める一方で、リリースされる物件の価格はコロナ前を超える高値であるにもかかわらず成約数が落ちる事は無く、コロナ前24,000円前後だった日経平均株価は年末に27,000円台に回復したのと同じく、2020年の不動産市場も実質的に相場価格が上昇したことを裏付けるかたちで幕を閉じました。

コロナ禍で不動産相場が上がった要因

コロナ禍であるにも関わらず不動産市場が浮上した要因は、時系列的に見て概ね以下の4点と考えられています。

(1)5月頃~現在

在宅勤務などの増加により、物理的に住環境整備が必要となった購入層が動き出した。

(2)7月頃~現在

オリンピック後の相場下落を期待して数年間様子を見ていた購入層が動き出した。

(3)8月頃~現在

世界的に見ると日本はコロナの影響が小さい事がわかり、日本の不動産に金融緩和で膨れ上がった不動産投資マネーの流入が再度始まった。(バックグラウンドで不動産市場に大きな影響を与えています。)

(4)9月頃~現在

株価の上昇や、活況な不動産市場の温度に啓蒙された購入層が動き出した。


但し、申し添えますと、上記の2020年の動向は、どの地域でも同じという事ではありません。

主に上記の動向を経験したのは、需要の高い都心部近郊や地方都市近郊エリアであり、その他のエリアでは、そこまで大きなうねりは無かったのも事実です。

この現象は、「需要のある、ごく一部のエリアは価値が維持又は上昇」「その他は価値がジワジワと下落していく又は、まったく価値が無くなってしまうエリアがジワジワと増えていく」という「不動産の2極化、3極化」と言われる流れに沿ったものであり、コロナ問題がこれを加速させた事は間違いありません。

在宅勤務が増えた春先に、まことしやかに語られていた住宅の地方回帰は実際にはほとんど起こっていません。確かに一時、地方の物件でも問合せ数はかなり増加しましたが、実行した人はかなり限定的でした。

この動向はもう少し中長期的にウォッチしていく必要がありそうですが、地方回帰が起こったとしても、ごく一部のエリアに限っては人が流入しますが、その他のエリアは更に過疎化が進むと思われます。

これは、兼ねてから問題視されている人口減少に伴う地方の過疎化とリンクしており、今後の各地方自治体のクオリティが高いか、低いかによってその結果が大きく変わると思われる為です。

現状と2021年の不動産市場の展望

このコラムを書いている1月5日現在、1都3県では2度目の緊急事態宣言が発令されようとしています。一方で、この年末年始もインターネットなどからの不動産のお問合せ数は減っていませんが、今年は20年近く不動産業界にいる者として、これまでで一番予想が難しい年になります。

まず、2021年の不動産動向に影響を与える可能性がある大きな要素は、以下の2つと思われます。

(1)昨年同様に「コロナ禍」

(2)今年4月からの「住宅ローン控除の改正」

※詳しくは昨年末のコラムをご覧ください


現状の不動産相場価格は、需要の多い都心部近郊や地方都市近郊では、バブル以降最も高かったリーマンショック前の水準を上回っており、ミニバブルといっても過言ではありません。一方で住宅ローン金利は史上最低水準を更新中で、変動金利0.3%台という金融機関まで現れている状況です。上記であげたポイントの一つ「住宅ローン控除」は現行法ではこの低金利によるメリットを受けられるものですが、あまりにもメリットが大きすぎるため来年の改正で縮小される予定となっています。

これが住宅の購入層を刺激して、今年は2020年の勢いを維持又は加速させる可能性もあります。

一方で「コロナ禍」はまだまだ出口が見えない状況です。昨年のように全く影響を受けない又は更なる相場上昇の要因となるのか、昨年以上に大きな影響を及ぼす問題に発展して、市場が冷え込む状況になっていくのかは、まだ今後の動向を見ていく他無いと思いますが、一つ言えることは不動産の「売却」をお考えの方にとっては、またとない機会だと思います。

今、家を売りたい人と買いたい人はどうすればいい?

不動産市場が冷え込むときに真っ先に影響が出るのは、先にも何度か触れた一部の需要の高いエリアではなく、それ以外のエリアにある大半の物件からになります。

そういった物件は、今後下がる事はあっても、上がる事は無い=先延ばしにすればするほど価格も売却のチャンスも減っていく運命にありますので、相続した不動産や、相続対策をしておいた方が良い不動産が、そういったエリアにある方にとっては常に「今年が一番高く売れる」と思ったほうが良いと思います。

 

最後に「購入」をお考えの方が「2021年をどう考えれば良いか?」ですが、私は常にお客様へ、住宅購入はその方その方が「必要な時」に購入するのがベストだとお話しています。

現在の相場価格は明らかに高いですし、今年の市場動向はプロにもなかなか読めないほど不透明であることはお話した通りですので、「今すぐ必要では無い方は、敢えて今購入する必要はない」と思います。

一方で今すぐ「購入する必要はない」けれども将来購入をお考えの方でしたら、今すぐ「ウォッチ」を開始したほうが良いと思います。

今後の動向について確かな事は解りませんが、「コロナ禍」「住宅ローン控除改正」そしてバックグラウンドで不動産市場に大きな影響を与えている「世界的な金融緩和」など、不動産市場の「潮目」を変える要素が今見えているだけで3つもある現在は、さながら渦がたくさんある鳴門海峡のような状態です。


以前「住まいのセミナー」動画でもお話した通り、不動産の購入時期は、往々にしてご自身の予定外のタイミングで訪れる事が多いものです。

私は日頃から「売却」の相談も数多く受けていますし、実際にたくさんの売却にも携わりましたが、購入当時に慌てて動き出して、不十分な不動産リテラシーのまま不動産業者の勧めでマイホームを購入し、あとで後悔されている方がとても多いのが実情です。

「今すぐ必要」ではない方は、これから2年~3年くらいの間に市場動向をウォッチして、その時点でも大きな動きが無ければ満を持して購入するというくらいで良いのではないかと思います。

気を付ける点としては、住宅ローンはほとんどの方が20年~30年以上の長期間に渡って支払っていくものなので、購入時期が遅くなれば、当然ながら完済時期はその分遅くなります。例えば60歳で完済できたものが65歳、70歳となっていくわけですので、そのバランスも考えたうえでご自身にとって「必要な時」を見極める必要があります。

その判断に有効な手段として、現在~老後までの収支をシミュレーションしてくれる「ライフプランニングFPによる個別相談)」を当協会でも行っていますので、ご興味のある方はお気軽にお問合せください。


また、「今すぐ必要」という方につきましては、2021年~数年は荒波の中での住まい探しを覚悟しなければなりません。

但し、ご自身の「自分軸」と「不動産リテラシー」をしっかりと持たれていれば、購入後に後悔するような不動産ではなく、将来的にも価値の下がりにくい=大きな損失のない不動産購入は可能です。

私が行っている個別相談「住まいの自分軸形成」では本年も、皆様の住まい探しの黒子役としてサポートさせて頂きます。


昨年以上に目まぐるしく変わる社会情勢も予想されますが、皆様にとりまして、2021年が明るい歳となりますことを、心よりお祈りしております。

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