どちらがお得?年金の繰上受給vs繰下受給

65歳から支払われる公的年金は、実はそれより早くからもらうことも、遅くもらうこともできます。多くの皆さんが心配している「老後の生活費」を考える時に、「公的年金をいつからもらうべきか?」ということは非常に重要なポイントですので、しっかり理解したうえで決めていきましょう。

【コラムニスト】

 ファイナンシャルプランナー 三井明子

●年金の繰上受給と繰下受給

年金を早くもらうことを繰上受給、遅くもらうことを繰下受給と言います。年金のもとになる原資は決まっていますから、早くもらい始めると、1回に受け取れる額は減り、遅くにもらい始めると1回に受け取れる額は増えます。

どのくらい変わるのか?ということですが、

減額率=0.5%×繰上げ請求月から65歳になる月の前月までの月数

ですので、60歳からもらう場合は、減額率=0.5%×12ヶ月×5年=30%ということになります。

反対に、繰下受給では1ヶ月につき、0.7%増額されるというしくみになっていますので、1年繰り下げると

0.7%×12ヶ月=8.4% 額が増えるというわけですね。

(※昭和16年4月2日以降に生まれた方の場合です。)

年金を早めにもらいたい!という気持ちも分かりますが、1年繰り下げるごとに8.4%増額されていくというのは、今の金利を考えると大きいと思います。

とはいえ、限界まで繰り下げて受け取り始めた途端に亡くなってしまったら、総受取額は少なくなるということも考えられますので、健康に長生きすることが何より大事です。

●結局、累計の受取額はどうなるの?

老齢基礎年金は一度受取を開始したら、減額または増額された年金が、一生涯支払われます。繰上受給を開始して、やっぱり1回に受け取る額が少ないと言っても、あとから変えられませんのでご注意ください。

また、公的年金は生きている限りずっと受け取り続けられますが、亡くなってしまったら受け取れません。我慢して繰下受給を行っても、長生きできなければ、ご自身が受けれる総額は少なかったということになるかもしれません。

その損得分岐点が何歳くらいなのかは気になるところだと思うので、比較してみましょう。

次の表は、老齢基礎年金の累計の受取額を、65歳から受け取った場合を真ん中に記載し、5年間繰り上げて受給した場合を左に、5年間繰り下げて受給した場合を右に記載したものです。

(※令和2年4月の満額の老齢基礎年金781,700円を基準に計算)

つまり、累計の受取額で考えた場合は、76歳より長生きされる場合は65歳からの受給した方が多く受け取れますし、81歳より長生きされる場合は、70歳から繰下げ受給した方が多く受け取れるというわけですね。

●長生きに備えるなら、できるだけ繰下受給!

何歳まで生きられるのかは誰にも分かりませんが、損得よりも、人生100年時代には長生きしても安心であることが一番重要かと思います。70歳から繰下受給すれば、1年間の受給額が65歳から受け取るより142%増えるというのは大きいですね。

人生が何年続くかは分かりませんが、生きている限りずっと受け取り続けられる公的年金がそれなりにまとまった金額で受け取れることは大きな安心だと思います。70歳以降の人生は、後になればなるほどどうなっているのか分からない部分が増えていきますが、60歳から70歳までは比較的イメージしやすいと思います。

70歳まではしっかり働いて年金が無くても大丈夫なようにキャリアプランを立てるとか、60歳~70歳までの生活費をしっかり貯蓄しておくなど、年金を繰下げ受給しても大丈夫なように計画を立てておくというのも一つの長生き対策です。

私個人としては、70歳までは仕事をして社会に貢献し、70歳から年金を受け取り始め、100歳まで健康に長生きしたいなと考えています。長い老後を楽しむためには、人生を豊かにしてくれる人たちとの関わりや生涯楽しめる趣味、そして何より健康に留意する事が大事だと思っています。

皆さんもぜひ、ご自分の場合はどんな人生を送ることができたら最高に幸せと思えるのかを考える機会を、なるべく早いタイミングで作っていただければと思います。

当協会のFPによる個別相談では、今後のライフプランを立てながら皆様の夢や希望についてもお伺いをさせていただきますので、お考えを整理していただいたり、ご夫婦で話し合うきっかけにしていただいたりと大変ご好評をいただいております。お若い方はもちろん、ご退職が近くなってきた皆様のセカンドライフプランのシミュレーションも行っておりますので、お気軽にご相談ください。


さて、今回は以上となりますが、いかがでしょうか?

人生は後戻りできない選択の連続ですが、大きな決断をサポートさせていただき、安心して次に進んでいただくお手伝いができれば幸いです。

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