収入が上がっても、貯金が増えない?

お若い方とお話ししていると、よく「今はお給料も少なくて貯金もできてないけど、収入が増えたら貯金できるはず」と楽観視されている方が多いように思います。逆に、40代、50代の方にお話を伺うと「なぜお金が貯まらないのかしら?贅沢はしていないつもりだけど…」というお声が多いです。

今回のコラムでは、年間100世帯以上の家計相談を経て、私が感じたことをお伝えしたいと思います。

【コラムニスト】

 ファイナンシャルプランナー 三井明子

●年収1,000万円でも生活が苦しいワケ

年収1,000万というと、とても余裕があるように思えるかもしれません。しかし、実際にそういうった収入を得ている方が、生活に余裕を感じているかというと、実はそうでもないのです。

企業に勤める方が、高い収入を得るためには、それ相当の対価を払わないといけないからです。

一例をあげますと、

・仕事に役立つ情報を得るための費用(新聞、本、雑誌、資格取得etc…)

・人間関係を維持するための費用(飲み会で多く払う、ご馳走する、冠婚葬祭費、接待ゴルフetc…)

・地位にふさわしい外見を維持する費用(高級なスーツ、靴、カバン、お化粧etc…)

などがあげられますね。

新人の時は、安価なスーツで良くても、部長さんともなるとそうはいかなかったり、多くの人前に出るようなお仕事だとお洋服にお金をかける必要が出てきます。また、飲み会に行っても、伝統的に役職の高い人ほどお金を多く出したり、冠婚葬祭でも立場に見合った金額を包むことが多いですよね。

部下が増えたという部長さん、本部長さんは毎月毎月、誰かの結婚式に呼ばれては、5万円のご祝儀を包むことになる・・・ということも良くお聞きします。また、お給料が高いということは、それだけ責任があり、プレッシャーのかかるお仕事をされているので、そのストレス解消のための費用も必要になってきます。

さらに、ご結婚されてお子様がいらっしゃる方ですと、40代・50代はお子様の教育費などで、毎年の収支が赤字(貯金を取り崩し)という方もかなり多いのが実情です。

こういった理由で、「収入が上がれば貯蓄ができる」と安易に考えることはできないのです。

●人間はすぐに贅沢に慣れる

また、人間という生き物はすぐに「飽きる」「慣れる」という特性を持っているので、人生経験を積めば積むほど、より良いもの、より強い刺激を求めるようになるものです。「ずっと同じレベルのご褒美」では満足できないようになっているんですね。

私も社会人になりたての頃は、ファミレスでの週1回の外食が「贅沢」でした。しかし、給与が上がっていくと、それは「日常」となり、やがて焼き肉を食べたり、ホテルでのランチなどが自分へのご褒美になっていきました。自分が仕事を頑張ったという達成感を感じるために「生活の質の向上」を求めるのは至極当然のことですし、次の仕事をもっと頑張ろうというモチベーションにもつながるので、決してそれ自体が悪いことだとは思いません。

皆さんにとっても、「若い頃に憧れていたもの」、「ずっと欲しいと思っていたもの」、「やりたいと思っていたこと」、それをご自分の努力によって一つ一つ実現していくことは、人生にとって大きな喜びであり、目的だと思うからです。

しかし、「贅沢を覚えたらキリがない」といわれる通り、目新しい喜びや刺激を求める階段を登り続けると、いつの間にか収入とのバランスが取れなくなっていることがあります。豊かになったと思いこみ、収入が上がるペースより、支出が増えるペースが上回ると危険です。収入が上がったのに貯金が減っていくという場合は、「過大なご褒美」になっていないかを冷静に判断する必要があります。

先ほどお話したとおり、人間はすぐ「贅沢に慣れる」のです。一度、日常になってしまった贅沢を元に戻すということは思うほど容易ではありません。強いストレスを感じる場合も多いでしょう。

幸せを感じ、自己実現をしていくための大事なプロセスも、ペース配分を誤ると、本末転倒な結果となりかねないのです。

●確実に貯めたいなら「先取り貯蓄」

では、どうすればペース配分を誤らずに済むのでしょうか?

最初にやるべき大事なことは、今後の人生において必ず実現したいと思っていることを全て書き出し、優先度をつけ、今後いくら必要なのかを知っておくことです。(これをライフプラン設計と言います。)そうすれば、今どのくらい貯蓄しておくべきかということが分かるので、あとはそれを実行するだけです。

とはいえ、それがそう簡単にはいかないという方も多いですよね。昇進や昇給で、ついついお財布の紐が緩むという方もいらっしゃると思います。ボーナスが出たら、ずっと欲しいと思っていたものを買いたいと思うのが人情です。

もし、ご自分が色んな誘惑に負けそうだなとか、計画的な貯金や習慣化が難しいなぁ、と思われる場合は「先取り貯蓄」がお勧めです。先取り貯蓄というのは、お給料が入った時点で先に貯めるべきお金を差し引いてから、残りを使うという方法です。使いたい分を使ってから「余った分を貯蓄」するという方法に比べると、この「先取り貯蓄」は確実にお金を貯めることができます。さらに、これを「自動化」しておくとなお良いです。

「先取り貯蓄」を自動化する方法は色々あります。

たとえば、

(1)財形貯蓄、持株会など、給与天引きや第二口座への振り込みを利用して分ける。

(2)銀行の自動振替サービスを使って、給与振込口座(生活口座)から貯蓄用口座に自動送金する。

(3)iDeCo、つみたてNISA、個人年金、生命保険などを活用し、引き落としで貯蓄する。


なお、私個人としては、(2)と(3)に加えて、「余った分を貯蓄」するというハイブリット方式を取っています。

上手に貯蓄するためには、お給料や生活費を入れる「給与口座(生活口座)」と「貯蓄用の口座」を分けることが初めの一歩です。銀行の中には、一人の預金者に対して複数の口座を持てるところがあります。三菱UFJ銀行の「つかいわけ口座」や住信SBIネット銀行の「目的別口座」などが有名ですね。メインとなる代表口座とこれらのサブ口座間での振替には手数料がかからないので、給与口座(生活口座)と貯蓄口座を分けて管理するには大変便利です。

私は代表口座を生活口座にしていますが、そこに収入が入ってくる日に、口座残高を毎月100万円でスタートするようにしています。その月の収入が入ってきて、残高が100万円を超えていたら、超えた分を貯蓄用のサブ口座に移し、100万円を下回っていたら、貯蓄用口座から生活口座へ戻します。

その後、自動的に各種の積立が引き落とされ、住宅ローンの支払やクレジットカードの支払をし、現金が必要な時はATMから引き出したりします。しかし、毎月必ず100万円でスタートしているので、今月いくら使ったかが、口座残高をチェックすれば、どのタイミングでも一目瞭然です。

また次の収入が入ってきた時に、残高が100万円を超えていたら「余剰資金(余った分)」となるので、追加で貯金します。(これが毎月快感です。)逆に100万円を下回っていたら、使い過ぎたなと反省して、貯蓄用の口座から戻します。(一度貯蓄へ回したものを戻すのは結構悔しい…)貯蓄を戻す際も、ちょうど口座残高が100万円になるように戻すことで、いくら使いすぎたかが分かり、収入の増加を上回るペースで使いすぎているということがチェックできるわけです。(下図参照)

毎月家計簿をつけるのは面倒という方でも、せめて「毎月の収入と支出の合計がどうだったか?」は把握していただきたいと思うので、こういった方法を参考にして、ご自分に合った楽な管理の方法を見つけてください。

●まずやってみることが大事

面倒だなと思うことでも、まず最初の一歩を踏み出すことが肝心です。

本来は、まずライフプラン設計をしてみましょう、と言いたいところですが、ハードルが高いなぁと思われる方は、財形貯蓄の申請、給与の第二口座への振り込み依頼、貯蓄用口座の開設など、簡単にできるところから始めてみればいいと思います。

貯蓄がしっかりできるようになってくれば、その使い道や将来のことをしっかり考えたいと思うようになる方が多いので、一つ一つ地道に進んで行くのも良いと思います。また、自分一人では心が折れそうとか、どうせやるならしっかり腰を据えて一気に解決したいと思われる方は、専門家のアドバイスや助けを借りてやってみるのも良いと思います。

安心で満足できる人生を歩んでいただくためには、自分の気持ちとお金を上手くコントロールしていくことが大事です。どこかで暴走が始まってしまうと、コントロールが難しくなるので、常に客観的なアドバイスをしてくれる存在がいるとなお安心です。


さて、今回は以上となりますが、いかがでしたでしょうか?

何か感じることがあれば、何でもいいのでぜひ行動に移してみてください。勉強になった、参考になったで終わらせて、行動を変えないと何も変わりません。やがてその行動が習慣になるまで、我々もサポートさせていただきます。いつでもお気軽にご相談ください。

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